『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』 辻野晃一郎 新潮社

○内容
二大世界企業を知り尽くす男の胸熱クロニクル。これは、ビジネス本ではない。敗北の物語である。

徹底的に戦った。しかし、機能を失った組織で、これ以上もがくのは無駄だった。VAIO、スゴ録など大ヒットを生んだ天才は屈辱に塗(まみ)れたまま、ソニーを去る。48歳・無職、ハローワークからの再スタート。変化を恐れぬ情熱は、グーグル日本法人社長の座を引き寄せる──ソニーでの22年とグーグルでの3年、彼はいかに挑み続けたのか。読む者を勇気づける、敗北と挑戦のクロニクル!

○ソニーの凋落とGoogleの隆盛
日本企業からイノベーションが失われたといわれて久しい。それを象徴するのが、日本のイノベーターの代表だったソニーの凋落であり、本書は日本のイノベーションを考えさせるもの。

著者の辻野晃一郎氏は、ソニーに入社後カリフォルニア工科大学に1年間留学、毎日3時間の睡眠で猛勉強していたとか、その後ソニーでVAIOやスゴ録などのヒット商品を生み、1984年4月から2006年3月まで22年在籍したソニーを退職後、2007年4月グーグル(Director of Product Management:執行役員製品企画本部長)へ転じ、2009年1月には日本法人の社長になり、2010年4月にグーグル本社のグローバルオペレーションの見直しに伴いグーグルを退職、2010年11月からアレックス設立を設立・代表取締役社長兼CEOに就任しています。

ソニーは出井社長時代につくられた「カンパニー」という制度が裏目に出て、商品戦略に整合性がなくなった。著者のチームが開発したスゴ録は、DVD録画機としてはヒットしたが、同じ時期に出たPSXと競合した。著者はカンパニーのトップとしてPSXを開発した久多良木健氏と交渉するが決裂し、同時に別々のDVD録画機が発売されて「ソニーは何を考えているのか」と批判を浴びる。

こういう問題の解決には、執行権者・役員がいあるのだが、著者もいうように、ソニーは「ガバナンスが機能していない」という。そして、勝ったスゴ録のチームが負けたPSXのチームに吸収され、著者はカンパニー長を解任されてしまう。

その後、著者はiPodに対抗する「ウォークマンAシリーズ」を開発するが、ここでも役員に「お前はなんでこんなもの作ってるんだ。アップルに行ってiTunesを使わせてくれといえばすむ話だろ?」といわれる。開発体制も二つのカンパニーの混成部隊になり、ソニーは独自規格に固執して、MP3をサポートしたiPodに惨敗する。こうした混乱続きで、2003年に「ソニーショック」といわれる大赤字を出し、出井会長などの経営陣が総退陣した。

そして著者はソニーを辞め、ハローワークで職探しをしたのち、グーグルの日本法人に入社する。ここで社長になるが、グーグル本社が日本法人の社長職をなくすのにともなって、グーグルを退職する。この経緯は本書には書かれていないが、著者は日本法人を降格することに反対し、本社と対立したようだ。全体として、ビジネス本としては表面的で、暴露本としては遠慮ぎみで新情報がないが、日本の会社がなぜだめになったのかを知る素材にはなる。

○「Googleとはどんな会社か?」
あまりの激務に、1年もたないのではないかと思う程で、定期券も3ヵ月更新でしか買わなかった。グーグルというのは、「多くの才能を大量に使いつぶしながら、ひたすら突き進んでいる」。グーグルが通ったあとには、才能を搾り取られた死屍が累々と並んでいる。等など。

我々が「自由で勢いがある、憧れの職場」だと想像している場所は、けっして「万能」ではない。でも、いまの「グローバル化」の大きな波では、そこまでやらないと、「勝ち組」にはなれないのだ。ただ、今この世の春を謳歌しているグーグルは、いずれはソニーと同じような「動脈硬化」に陥らないだろうかと思ふのです。その時代に合うものは次の時代には合わなくなる。今はそのスピードが速いドッグレースと言われるが、”変化”ではなく急激な変化ー”革命”的なスピードが必要なのだ。


コメント