『レインツリーの国』 有川浩 新潮文庫

『レインツリーの国』 有川浩 新潮文庫

後ろから自転車のベルを鳴らしているのに避けてくれないのでイライラする

そんな事は日常茶飯事のように思えたが、『レインツリーの国』を読むとドキッとする事が多くなるだろう。この物語は耳にハンデを持ったヒロインが登場する。

作者の別作品『図書館戦争』シリーズに出てくるアイテムとして本書『レインツリーの国』が登場する(らしい)。書きたかったのが恋の話とあとがきに記さ れているように、本書は主人公たちの恋の物語。その間に障壁となっているのがヒロインの障害だ。(本書でも障害と記される)

中途失調、難聴、聾、聾唖。これらの違いについては知識がなかった。中途失調や難聴は後天的に耳が聞こえなくなる症状。一方聾、聾唖などは先天的に聞こ えない症状。後者はしゃべる事も聞く事もできないが、前者はしゃべる事はできるが、聞こえない。一見、前者の方が症状が軽いようにも思えるが、社会的には そうではないらしい。

聾や聾唖の人はすごく存在感があるコミュニティをつくている人たちだと思ってたんです。独自の文化を持ってて、それこそ聾民族みたいな感じで。
・・・
手話は聾者の作り上げた文化だから聾者の認める手話しか手話として認めない、とか。中途失調や難聴者は聞こえないくせに喋れるからずるい、みたいな事を言われた人もいるんです。

著者はここで、コンプレックスのある人は、フラットになるのがすごく難しいと指摘。その投げやりな思考停止とヒロインの性格を描写する。

聴覚障害者にしか聴覚障害の悩みや辛さは分からない。だから分かり合う事などできないと思っていた。だが、他人に理解できない辛さを抱えている事は健聴者も変わらないのだ。その辛さの種類がそれぞれ違うだけで。

悩みに貴賎をつけるのは驕りであり、本人にとっては本人の痛みこそが唯一絶対になる。救急車で運ばれ重病人が近で倒れていても、自分の指の傷が一番痛いと思うのが人間なのだ。そして反省し行動を変えられるのも人間。



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